愛犬のために エキノコックス症のおはなし
待ち焦がれていた暖かな日差しと、残雪に新緑が映える春。様々な生き物がきらめくように命を輝かせる夏。自然の恵みにあふれ、厳しい季節に向けて生き物たちも忙しい秋。すべてのものが凍てつき、寒さに耐えながらも絶えることのないいのちをつなぐ生き物たちが眠る冬。北海道の自然は、わたしたち人間にも家族であるわんちゃんたちにもさまざまな恵みをもたらしてくれています。この恵まれた自然をわんちゃんとともに満喫できる環境が、北海道には都市近郊にもとてもたくさん存在し、わんちゃんを伴ってお出かけされているかたも多いのではないでしょうか。郊外で自然に親しむことは、人間にとってもわんちゃんにとっても有意義なことですが、自然の中でのわんちゃんとのレクリエーションには、楽しいことばかりではなく、気を付けなければならないこともあります。慣れない場所で起こりがちな怪我や、迷子には十分注意する必要があります。また、街なかではあまり注意を払わない寄生虫が問題になってきます。マダニやノミなどの外部寄生虫は、かゆみやアレルギーの原因になり、まれに重篤な住血原虫を媒介することがあります。これらの外部寄生虫は肉眼でも確認することが可能なので、気づいたら動物病院で駆除を依頼したり、予防薬を処方してもらうことで対処することが可能ですが、体の中に寄生してしまうものたちは、見た目で判断できないので厄介な存在です。
皆さんはエキノコックス症という病気はご存知でしょうか。エキノコックス症は多包条虫という寄生虫による感染症です。この寄生虫は、キツネと野ネズミに主に寄生しています。成虫がキツネの腸に寄生して卵を産み、その卵が糞と一緒に排泄されます。野ネズミが木の芽等と一緒にこの卵を食べると、体の中で卵が孵って幼虫となり、肝臓に寄生します。幼虫が肝臓に寄生することによって野ネズミの動きが悪くなり、キツネに捕食されやすくなります。キツネがこの野ネズミを食べることにより、幼虫がキツネの腸へたどりついて成虫になります。
人間は多包条虫の卵に汚染された山菜や沢水などを直接口にすることや、卵が付着した手指を介して感染します。北海道外ではほとんどみられませんが、道内では毎年10数名の患者が見つかっています。人間は主に肝臓に幼虫が寄生して症状が現れますが、数年から10数年の潜伏期間があり、すぐには自覚症状が現れません。上腹部の不快感や膨満感が現れ、しだいに肝機能障害に伴うだるさや黄疸等の症状が現れ、放っておくと肺や脳に病巣が転移して命にかかわることもあります。多包条虫は、人間の体内ではネズミと同様に幼虫までしか成長しないので、人間⇒人間やネズミ⇒人間では感染しません。卵は、直径0.03mmの球体で肉眼では見えませんが、十分な加熱や水洗い(手洗い)で、感染を予防することができます。野山でのバーベキューなど、特に注意しましょう。
わんちゃんはキツネと同様に、多包条虫に感染した野ネズミを口にすることにより、成虫が腸に寄生して、卵を含む便を排泄する様になりますので、わんちゃんを飼っている方は、その飼い方に注意が必要です。わんちゃんを野山に連れて行ったり、野ネズミとの接触の可能性がある場合には動物病院で検査を受けた方がよいでしょう。エキノコックス症の検査は糞便内の寄生虫抗原を検出するサンドイッチELISA法を利用した検査キットと、しょ糖液浮遊法による虫卵検査があります。わんちゃんの便を動物病院に持って行けば検査してもらえます。
人間のエキノコックス症は、予防できる病気であり、早期発見、早期治療が大切です。北海道での生活が5年以上で検診を一度も受けたことがない方や5年以上検診を受けていない方、特に、キツネに触れたことのある方や野ネズミを補食した可能性があるわんちゃんの飼い主など感染のおそれがある方は、各市町村が実施する健康診断(血液検査)を積極的に受診しましょう。また、この健康診断で感染の疑いがあった人は、道が委託している医療機関で精密検査を受けることができますので、詳しくは、市町村又は最寄りの保健所に御相談ください。