愛犬のために 外耳炎のおはなし
最近、自分の家のワンちゃんやネコちゃんが頻繁に頭を振ったり、柱や壁に耳をこすりつけるような仕草を見かけたり、後ろ足で耳を掻く仕草が極端に多くなったという方はいませんか?
このような場合は、ワンちゃんやネコちゃんの耳にトラブルが起きている可能性があります。
動物の耳は外側から順に外耳、中耳、内耳の3つの部分に大きく分けられます。
このうち何らかの理由で外耳に炎症が起こってしまう病気のことを外耳炎と言います。
外耳炎を引き起こす原因(原発性因子)には、細菌(バイ菌)や真菌(カビ菌や酵母菌)などの微生物や寄生虫の感染によるもの、アレルギー性皮膚炎やアトピー性皮膚炎といった免疫システムのバランスの崩れによるものなどが多くみられます。また、外耳炎を引き起こしやすい要因(好発因子)が知られており、多くの場合複数の要因が重なり合って外耳炎の症状を引き起こすことが知られています。たとえば、ダックスフントなどにみられる、長く大きく垂れ下がった耳介をもつ犬種は、外耳道(耳の穴から鼓膜までの道)の湿度と温度が高く維持されてしまいがちです。さらにコッカースパニエルなどでは、大きく垂れ下がった耳介に加えて外耳道壁の分泌腺からの分泌物がほかの犬種よりも多い傾向があることが知られています。また、プードルのように外耳道内の毛量が多い犬種でも同様に外耳道の温度と湿度が高く維持されてしまいがちです。折れ耳のスコティッシュ‣フォールドやアメリカンカールのように耳介軟骨が硬く、耳道が狭窄しているネコちゃんもまた、耳道内の温度と 湿度は高く維持されてしまいがちです。このような環境は、細菌や真菌が増えやすい条件が揃ってしまっているため、外耳炎が発症しやすいかもしれません。ヒトにおいても、 乾燥した耳垢の方と粘度の高い耳垢の方の違いがみられるように、ワンちゃんやネコちゃんにも品種や個体で差があることを理解し、家族の一員としてのワンちゃんやネコちゃんの品種の特性や個体差を把握し、その状況に応じたケアをしてあげるなどの注意が必要です。
外耳炎による耳のかゆみや痛みがあると、ワンちゃんやネコちゃんたちは冒頭で述べたような 行動を取ることが多くなります。その他に耳垢が増えた、黒い耳垢が出てくるようになった、甘酸っぱいにおいがきつくなった、クリーム色の膿のようなものが出てきた、といった症状も見られることがあります。
外耳炎の治療は原因によってその方法が変わります。細菌や真菌感染の場合は主に抗菌薬の投与、ダニなどの寄生虫が原因ならば駆虫薬を投与し、同時に耳道内の洗浄を行います。しかし、これらの内科的治療がうまくいかず、慢性化して強い炎症を繰り返した結果、 外耳道壁が肥厚し、強い症状が継続的に起きている場合は外科的な治療を選択しなければならないこともあります。
ひどい外耳炎は鼓膜の損傷や、それに伴う中耳炎、内耳炎へと進行してしまうこともあります。また、耳にできる腫瘍はその症状が外耳炎と似ていることもあります。外耳炎は軽度ならば、速やかに治療を開始することで完治させることが期待できる病気ですが、 治療をしないで放っておいたり、指示された投薬の頻度が保てていなかったり、治療を勝手に中断したりすることで、完治が難しくなってしまう病気でもあります。
動物にとって耳は、聴覚だけでなく平衡感覚も司る、生きていく上でとても重要な器官です。この大事な器官を守るために、こまめにワンちゃんやネコちゃんたちの耳の状態を把握して、外耳道の環境を良好に保ってあげることが大切です。耳を気にするようなそぶりが何度も見られるようになったらすぐに動物病院で診察してもらい、指示された投薬や治療期間を守って、早く治してあげましょう。