愛犬のために 尿路結石のおはなし①
記録的に遅い初雪の便りがちらほら聞こえてきたと思ったら、いきなり大雪になるなど、例年より遅いペースではあるものの確実にやって来る冬はもう目の前です。皆さんのご家庭には、まだ根雪もないのにストーブの前から離れない寒がりワンちゃんやネコちゃんはいませんか?そんな寒がりワンちゃんやネコちゃんを家族にしている飼い主さんには、特に注意をして欲しい、時に命にかかわる事態をも招く恐れがある、尿路結石についてのお話を3回に分けてご紹介します。
生物の体内では、たくさんの細胞が生命維持のために働いており、その活動は、食べ物から得られる栄養素をフル活用して行われています。栄養素は、その役割のなかで、細胞内外の様々な酵素の働きによってかたちを変え、エネルギー源になる物質になったり身体を形作る材料になる物質になったりして利用されています。最終的に、利用できなくなる、害を及ぼすかたちになる、必要以上の量になるなどして不要になった物質は、身体の外に出されることになります。尿(おしっこ)は、体内の老廃物を処理するとても重要な臓器である腎臓で、血液中の水分とともに老廃物を、濾し出して濃縮しながら溶かし込んでつくられる液体で、体内で不要になったさまざまな物質を含んでいます。左右の腎臓でつくられたおしっこは、左右の尿管という2本の細い管で常時、膀胱へ送り出されています。膀胱は、腎臓で休みなくつくられるおしっこを、排尿するまで一時的に溜めておく袋状の臓器です。溜められたおしっこが一定量を超えると、尿道という1本の管を通って体外に排泄されます。
コップ1杯の水に砂糖をスプーン1杯入れてかき混ぜれば、見た目には砂糖が入っているかわからなくなります。これは、水の中に砂糖が十分に溶けている状態です。しかし、温度が同じ状態で入れる砂糖の量をどんどん増やしていくと、砂糖は十分に溶けていられず、どんなに混ぜても結晶のままコップの底に沈殿してしまうはずです。砂糖に限らず、水に溶けることができる物質であっても、一定量の水のなかに溶けていられる量は限られているのです。同じようなことがおしっこのなかでおきたらどうなるでしょう?
おしっこに溶け込んでいる老廃物には、様々なミネラル類も含まれています。ミネラル類が、おしっこに溶けていられる量を超えてしまっていたら?ミネラル類の量は変わらないけれど、溶けていられるおしっこの量自体が減ってしまったら?こんな場合には、コップの水に溶け込んでいられなくなって沈殿する砂糖のように、析出し結晶化してしまう恐れがあるのです。
腎臓から尿管を経て膀胱、膀胱から尿道を通って排泄に至るまでの間で、おしっこに溶け込んでいられなくなってしまったミネラル類などが析出して結晶化し、それらが固まったものを尿路結石といい、その尿路結石がさまざまなトラブルを引き起こす病気を尿石症といいます。尿石症の原因となる結石にはいくつかの種類が知られており、代表的な結石にはリン酸アンモニウムマグネシウム(ストルバイト)、シュウ酸カルシウム、尿酸アンモニウムなどが挙げられます。
尿石症はヒトでも起こりえる病気で、表現できないほどの激痛を伴う場合があることが知られています。もし、みなさんのお家の仔が、したそうにしているのにおしっこがでていなかったり、おしっこの色が茶色やピンク色がかっていたり、少量のおしっこを頻回にわたってするようなら、それは膀胱炎の徴候である可能性があります。すぐにかかりつけの動物病院を受診してください。適切な治療を早期に開始し、一定期間継続することで、早い回復が望めます。逆に、頻尿や血尿がみられなくなったからと、療法食や投薬を自己判断で中止すると、再発の可能性が高まってしまいます。もし、尿石症の治療中ならば、かかりつけの動物病院の先生の指示を守り、絶対に自己判断で中止しないようにしましょう。
これからの季節は、運動量が減り、飲水量も減ってしまいがちです。飲水量が減ってしまうと、おしっこは夏場に比べて濃くなりがちです。膀胱に濃いオシッコをため込んでいると尿石ができやすくなり、結石が原因で命に危険が及ぶことがあることを覚えておいていただき、家族の一員である皆さんのお家のワンちゃんやネコちゃんとの幸せな日々のためにも、毎日の食餌やお水、おしっこの様子のチェックを習慣にしてみてはいかがでしょうか。